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備前・旭川の憂鬱 (『ノルム』黒田日銀総裁退任記者会見 24-02) [日記・雑感]


『黒田総裁退任記者会見 ―2023年4月7日(金)午後3時半から約60分』は以下のPDFで全文を確認できます。https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2023/kk230410a.pdf

筆者は何故に、そして今頃この退任会見を注目したか、です。それは『ノルム』です。『ノルム』とは何ぞや?理系の端くれの筆者は、数学のベクトルを思いだします。もちろん経済の『ノルム』は違います。

『ノルム』とは「予想」より強い概念で、社会的な習慣、規範意識や社会通念を意味するようです。 アメリカの経済学者Arthur M. Okun (1928 – 1980) が提唱しました。

アナログ的理解は〝長年の経験に基づき、人々の間には物価や賃金の上昇率について世間相場のような、皆が当たり前のように考える水準が形成され、それが実現していく。 日本はほぼ30年間、物価上昇率がゼロ近傍に抑えられてきた。〟という事になります。

もう少しましな解説は、東洋経済ONLINE https://toyokeizai.net/articles/-/344140 2020/04/17 を参照ください。



以下、黒田日銀総裁退任記者会見より抜粋します。それは、

〝1998年から2012年までの約 15年の長きにわたるデフレに直面しておりました。こうした状況を踏まえ、日本銀行は 2013年に量的・質的金融緩和を導入しました。〟いわゆる、アベノミックスの一つですね。

〝経済の改善は、労働需給のタイト化をもたらし、女性や高齢者を中心に 400 万人を超える雇用の増加がみられたほか、若年層の雇用環境も改善しました。また、ベアが復活し、雇用者報酬も増加しました。〟

〝政策には常に効果と副作用があり、量的・質的金融緩和も例外ではありません。〟

〝長きにわたるデフレの経験から、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわゆる『ノルム』が根強く残っていたことが影響し、2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現までは至らなかった点は残念であります。ただ、ここにきて、女性や高齢者の労働参加率は相応に高くなり、追加的な労働供給が徐々に難しくなる中で、労働需給の面では、賃金が上がりやすい状況になりつつあります。〟

〝先行きの経済・物価動向を巡って様々な不確実性があるのは事実でありますけれども、賃金・物価が上がらないという『ノルム』は徐々に変化していき、賃金の上昇を伴うかたちで物価安定の目標が持続的・安定的に実現することを期待しております。〟

〝まず第一点につきましては、先ほど来申し上げているように、15 年続きのデフレの中で、いわゆる物価・賃金が上がらないという慣行、考え方、『ノルム』というものが根強くあったということが非常に大きかったというふうに考えておりますが、今やそれも変容しつつあるということで、2%の物価安定目標を安定的・持続的に達成できる時期が近づいているというふうに思っております。〟

〝まず『ノルム』が変化しつつあるというのは、確かにショックとして輸入物価が大きく上がって、価格転嫁というかたちで消費者物価も上がったと。そのもとで労使関係の中で、そういった物価上昇を踏まえた賃金交渉になってきたということが明らかに『ノルム』を変えつつあると。具体的に言えば、長期の予想物価上昇率が上昇してきているというかたちで出ていると思うんですけれども、そもそもそういうふうになった前提として、やはり 10 年間の金融緩和の中で、経済活動が活発化し、労働市場がきわめてタイトになり、これ以上の新規労働力の供給が難しいほどまでタイトになって、コロナの状況のもとでも失業率は 2.5%前後で、15 年続きのデフレの頃の 4~5%の半分ぐらいで維持されてきたわけですね。〟

〝そうしたもとで、ああいう輸入物価ショックがあって、『ノルム』が変容しつつあるということだと思いますので、やはり金融緩和を通じて経済の成長を促進し、賃金の上昇が続くというようなかたちを維持することが一番重要だと思っております。〟

以上のように、いたるところに『ノルム』とういう言葉が出てきます。黒田東彦・前日銀総裁は、長きにわたるデフレによって賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわば『ノルム:社会通念』が残り、その影響で2%の物価安定目標が実現しなかった、と仰りたかったのでしょう。



筆者も同様に、卵は物価の優等生、といった『ノルム』がデフレを継続させたと考えています。たしかに、消費者である国民は、賃金が増えることを望む一方で、物価上昇は望んでいません。

では、なぜ最近、黒田日銀総裁退任の時期になって『ノルム』の溶ける物価上昇状況になったか?です。残念ながら日本国内の活力回復ではなく、

1.新型コロナ禍の終息による経済活動の急激な回復で、世界的にサービスを含む物価が高騰した。日本では輸入物価が高騰した。

2.ロシアのウクライナ侵攻で日本を含む欧米諸国がロシアに経済制裁をした。これにより資源大国のロシアの天然ガスや原油、そしてウクライナ・ロシア産の穀物の価格が高騰した。

3.安部政権時代より政府が労組の親分になり賃上げを強力に誘導した。

4.働き方改革、例えばロジスティックス・運転手さんの2024年問題に代表される賃金上昇期待。

5.日米金利差起因の円安

等が考えられます。

これらにより、企業は下流である消費者物価に、上流の価格高騰分を転嫁せざるを得なかったのではないでしょうか。

まあ日本固有文化である【外圧】です。これでやっと『ノルム』が溶けかけているように思います。

慶応大学の経済学者、井手 英策さんはご自身の著書『経済の時代の終焉』岩波書店2015年で〝「アベノミックス」ほど頑張ってもこの程度の成果しか残せなかった。できる事は全てやったという感じ〟と述べておられます。『ノルム』という概念は、この疑問に対する重要な回答と思われます。



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